2007.01.23
【技術経営】 榊原清則著(2005)『イノベーションの収益化:技術経営の課題と分析』,有斐閣.
本書の終盤では,機械式時計とは比べものにならないほどの飛躍的な精度向上をもたらしたクオーツ式時計のイノベーションと,その収益化について詳細に検討されており,「統合型企業のジレンマ」なる概念が提示されている.ごく簡単に説明すると,「統合型企業のジレンマ」の概要は次のようなプロセスを経る.
■ 新規部品の開発(クオーツ式ムーブメントの開発)
↓
■ 新規部品の内製(クオーツ式ムーブメントの内製)
↓
■ 新規部品の開発・生産設備への投資を回収すべく生産規模の拡大(社内完成品への搭載量<新規部品の生産量)
↓
■ 新規部品の外販とオープンな特許政策(クオーツ式ムーブメントの外販と有償・無償の実施許諾)
↓
■ 新規部品(クオーツ式ムーブメント)を搭載する競合他社(アジアの新興諸国企業)による完成品(クオーツ式時計)の上市(クオーツ式時計の市場価格の低下)
↓
■ 自社完成品(クオーツ式時計)のコモディティ化(利益率低下:自社完成品ブランド価値の毀損)
投資は回収とワンセットであり,投資した以上,それを上回るように利益を上げることは,当然の企業行動である.統合型企業のジレンマは,新規部品への投資を超える収益性を上げるために行う「部品の外販」という至極当然の企業行動が,結果として自社完成品の差別化・差異化にとってマイナスに作用し,自社完成品のブランド価値を低下させてしまうという,ということを提示している.
また本書では,「部品の外販」とともに「オープンな特許政策」が,自社クオーツ式時計のコモディティ化の背景にあると指摘している.具体的には,スイス勢とは彼らの所有する特許技術を訴訟リスク・ゼロで使用したいがために無償のクロスライセンスを結び,その他の企業とは有償ライセンスを締結したと説明されている(本書225頁).
ここで説明されているクロスライセンスや有償ライセンスは,特許の世界に従事するものであれば日常的に聞くことであり,クロスライセンスすべきか否かの判断を日常的な業務にしている人も多いだろう.
クロスライセンスは,クオーツ式時計の事例のように,研究開発・製品販売の自由度拡大(訴訟リスクの回避)というメリットがある反面,特許という唯一合法的に独占可能な知識を非独占化するものであるから,自社製品の差別化・差異化価値が低下し易いというデメリットがある.
このようにクロスライセンスは諸刃の剣であるから,それを実行すべきか否かは,概ね,事業部の業績の状況(事業部における売上高の達成状況や見込み状況等),市場特性(製品の市場価値の所在,製品のライフサイクルの長短等),技術特性(技術開発の困難性,自社開発の限界,開発投資額の多寡等),相手方特許の魅力度(特許の有効性,自社技術への適応可能性等)といった,少なくとも事業部レベルの経営的・技術的な視点に基づいて決定されるべきものである.
そして,事業部は全社での業績や研究開発マネジメントと直結しているから,全社的な経営戦略の視点が判断材料として加わることは言うまでもない.
このように考えてくると,最終的には経営トップの決断に委ねられるべきことである.知財は専門的だからとか,難しいからといった類の言い訳は通用しないのである.しかしながら,その逆も同様で,クロスライセンスの問題を扱う現場のスタッフが経営マターだからという理由で,全社的な視点を欠いたクロスライセンスを行った場合の功罪(経営への影響)を議論しないことも,許されないのである.要するに,三位一体と良く言われる経営−技術−知財のバランス感覚を,経営トップと現場スタッフとが何らかの方法で,共有することが重要である.
本来は,共有ではなく,それぞれにおいて持つことが理想である.しかしそれには限界がある.したがって,例えば現場スタッフが技術経営を本格的に勉強して,経営トップとの接着剤的な役割を担う人材となることが有効である.知財人材を如何にして効率的に育成するか,ということが議論されることがあるが,その早道は,技術経営を勉強することと,責任を持つことである.
ちなみに,経産省は「包括的ライセンス」の制度化を検討しはじめたようである(2006.12.12,日刊工業新聞1面).包括的ライセンスは,これまで特許を特定してライセンス契約をしていたのを,特許を特定する代わりに「製品」を特定することで締結するライセンスである.また,他社の特許や技術を買収した企業が行った買収に伴う設備投資額の30%を特別償却できる減税措置等も法定されるようである(2007.1.22,日経新聞朝刊1面).経済・社会環境の変化を受けて,ようやくライセンスを巡る法整備もなされつつある.今後の推移に注目したい.
なお,本書には,「統合型企業のジレンマ」で登場したクオーツイノベーションの事例以外にも,製品の利益プロファイルをコントロールすることで技術を収益化させるキャノンのプリンタの事例や,インテルの事例などが子細に検討されている.いずれもイノベーションの収益化というテーマに沿って書かれた事例であり,とても興味深い示唆が提示されている.是非,一読されることをお勧めしたい.
(2007. 1.23 大竹)
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2006.12.19
【知的財産】 京本直樹編著(2004)『知的財産マネジメントの真髄:理論と実践』,神鋼リサーチ.
総務庁が平成16年に行った「事業所・企業統計調査」によると,中小企業数(会社数+個人事業者数)は,約432.6万社であり,全企業数の99.7%を占めるそうである.また,個人事業者数を除く,中小企業会社数は約150.8万社であり,全会社数の99.2%を占めるという結果が出た.中小企業は目立たない存在だけれども,日本の産業構造は,そうした幅広い中小企業群によって支えられているという事実を,しっかりと受け止めておきたい.
そして,仮に知的財産が,とりわけ日本産業を根っこで支えている技術系の下請け中小企業が持続的な成長を遂げるために有用であるとするならば,どのように知的財産を活用すればよいのだろうか.技術系の下請け中小企業の知的財産戦略,あるいはサプライヤーの知的財産戦略は,検討すべき一つの重要なテーマである.
このようなことを今考えており,その一環として手に取ったのが本書である.本書の特徴は,執筆者の多くが企業で知財業務に携わる方々であり,そうした方々の生の声を反映した内容となっていることである.その他にも,東工大が2003年に行った「企業のR&D戦略と知的財産戦略に関する実態調査」に関するアンケート結果や,知財戦略についての多くの事例が紹介されており,参考になるところもある.ただ,企業ごと,製品の分野ごとに競争環境が異なり,従って知財戦略も異なるため,やや物足りなさを感じた.企業経営における知財戦略の全体像を紹介しようとする本書の構成上,仕方ないかもしれないが,もう少しポイントを絞って知財戦略を理論的・体系的に構築し,そして実践的にも突っ込んで議論して欲しかった,というのが率直な感想である.
(2006.12.19 大竹)
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2006.12.16
【経営戦略】 グロービス・マネジメント・インスティテュート(1999)『MBA 経営戦略』,ダイヤモンド社.
私事であるが12月16日は想い出深い日である.今からちょうど1年前の今日は,早大MOTで所属していた寺本・山本合同ゼミでの修士論文の提出期限であった.
普段から明細書を作成していたし,侵害訴訟の際には50頁,ときには100頁を超える準備書面を書いていたため,比較的長文の文書を書くことには慣れていたつもりだった.早大MOTでは,最低字数として本文のみで25,000字(40字×50行の明細書の頁数換算で12.5頁)を超えることが,修士論文の合格のための形式的要件だったが,その程度ならさほど苦もなく書けるだろうと楽観視していた.結果的には99頁で約85,000字の修士論文として仕上がったが,完成に至るまでのプロセスには想像を絶するほど大変だった.(修士論文を99頁という区切りの悪い頁数にとどめておいたのは,それなりの理由があってのことである.卒業後の研究で2桁の壁を突破し,3桁に及ぶ論文を作成しようと考えていたからである.)
修士論文に参考文献として列挙した文献数は48冊であり,それらについてはすべて読破した.そして参考文献として列挙しなかったが,修士論文を作成する過程で部分的に参照した文献数を合わせると100冊を超える.これらの文献を参考にしたり対比したりしつつ,自己の設定したテーマを一つの論文として結実させていくプロセスは,当初考えていたほど甘いものではなかった.
考えてみれば,普段から行っていた明細書の作成や準備書面の作成は,あらかじめ書くべき題材が用意されているから,比較的スムーズに書けているのであって,自ら新規性のあるテーマを創造し,それを技術経営という領域で論理立てて修士論文へと結実させていくプロセスとは,まったく次元が異なる異質な作業である.それでも何とか粘って書き上げて,ゼミでの提出期限に間に合わせることができたのが,ちょうど1年前の今日である.
前置きが長くなったが,今回紹介するのは,経営学の勉強を始めた頃に読んだ本である.修士論文を作成する際にも参考文献には上げなかったが部分的に参照した.
この本は,『見える化』(東洋経済)で著名な遠藤功先生が担当されていた経営戦略の授業の教科書として指定されていた本である.授業中では殆ど使用しなかったが,遠藤先生ご自身もたまに参照するようなことがあると仰っていた.経営戦略の基本中の基本を体系的に知るには,この本で充分だろう.同書には,経営戦略の基本が体系的に書かれており,全体像を把握するのにはちょうどよい.また,様々な日本企業の具体的なケースに沿って展開されており,初心者にとっても非常に読みやすく書かれている.
『知財管理』の2006年12月号に「経営に資する知財人材の育成」という資料が掲載されており,企業が必要とする知財人材として,経営的な視点を持つ「知財参謀」なる人材像について書かれているが,本書はそのような「知財参謀」の育成にも使えると思われる.また「知財エキスパート」なる人材像についても書かれているが,そのような方々の育成にも使えると思われる.
もっとも,「知財参謀」と「知財エキスパート」との間に,戦略とその実行について認識のズレやギャップがあることが,戦略不全に陥る原因となることもあろう.したがって,「知財参謀」だけが,本書を読めばよいという訳ではない.むしろ「知財エキスパート」と言われる人たちも本書を読む必要もあろう.そして,研究開発者,マーケター,経営者をも含めて,お互いに知財戦略について議論する場を創出することが,企業における真の知財人材の育成に繋がるのではなかろうか.
(2006.12.16 大竹)
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2006.12.11
【知的資産・書籍紹介】
12月1日〜8日にかけて東京・大阪で開催された「知的資産経営ウィーク 2006」は,盛況の内に終わりました.重要なのは,イベントが終わったから終わりというのではなく,むしろ知的資産経営をさらによく知ることでしょう.なぜなら,知的資産経営とは,基本的に自社の強みや弱みを明確に意識するとともに,強みについてはさらに強化し,弱みについては強みに転換する客観的な気付きを得るための,マネジメント上の仕組みとして機能し得るからです.そのための参考になりそうな書籍を幾つか簡単に紹介します.
■リーフ・エドビンソン,マイケル・S・マローン(1999)『インテレクチュアル・キャピタル:企業の知力を測るナレッジ・マネジメントの新財務指標』,日本能率協会マネジメントセンター.
著者であるスウェーデン・ルンド大学のエドビンソン教授は,OECDの知的資産経営国際カンファレンスのセッションでモデレーターを務められました.本書は,知的資産経営に関する先駆的著書です.
■バルーク・レブ(2002)『ブランドの経営と会計』,東洋経済新報社.
ニューヨーク大学のレブ教授は,アメリカにおけるインタンジブルズ研究における第一人者とされている方です.本書のタイトルには『ブランド』とありますが,それに限った議論ではなく,むしろ知的資産全般について書かれています.知的資産を知る上で,避けては通れない著作です.
■パトリック・サリヴァン(2002)『知的経営の真髄:知的資本を市場価値に転換させる手法』,東洋経済新報社
今回紹介する中では,知的財産に触れている比重が最も高い書籍です.知的財産のマネジメントにも触れられています.
■経済産業省(2004)『通商白書2004』,ぎょうせい.
第2章『「新たな価値創造経済」と競争軸の進化』と題して,知的資産経営についての研究が纏められています.国際的な動向も含まれており,知的資産経営に関する初期の議論を知るには有用です.
(2006.12.11 大竹)
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2006.12.06
【知的資産】
12月5日の「日経知的資産経営フォーラム 2006」に参加してきました.主催者である日本経済新聞社の方によれば350名を超える方が申込みをされたとのことで,当日は会場も盛況でした.
参加したのは以下のプログラムです.
特別講演:「新しい時代の発想−21世紀の知的資産経営」
ファイザー社 法務部門 グローバル政策担当責任者 上席法務顧問のオーウェン・ヒューズ氏
■感想■
印象的だったのは,イノベーションとネットワークとの関係の重要性を指摘していた点.個が人的にも組織的にも多くの繋がりを持つことで,イノベーションが起こりやすくなるということ.
製薬業界では将来のキャッシュフローを創出する有効な創薬に繋がるパイプラインを何本持つかが,競争戦略上重要な一つの因子になります.そのため同業界では,ファイザー社に限らず,多くの企業が既存の研究開発領域とシナジーを出せる他企業とのM&Aやアライアンスを行っています.製薬業界にはそのような特徴があることから,ヒューズ氏はネットワークの重要性を指摘したのでしょう.
アフターM&Aの場面で,ファイザー社は,どちらかと言えば,買収企業を同社に統合する集権経営的なスタイルを取っているようです.J&Jや武田薬品工業などは,どちらかと言うと,分権経営的なスタイルを取っているようです.今後ますます製薬業界の再編が加速した時に,集権経営と分権経営とで,どのような違いが出てくるのでしょうか.そのあたりに注目していきたいと考えています.
基調講演:「高付加価値ブランド戦略で,成熟市場を切り拓く」
花王 取締役会長 後藤卓也氏
■感想■
後藤会長は,“人間力”が同社の最大の知的資産と仰ってました.個人の主体性,創造性,実行力が,企業の知的資産となって競争力が向上すると指摘していました.その上で,“能ある鷹は爪を隠す”ではなく,“能ある鷹なら爪を出せ”と社内で仰っているそうです.
また,基本を徹底的に行うことが重要だとも仰ってました.曰く,「凡を極めて非凡に至る」.
ワークショップA「知的資産経営の本質」
プレゼンター;三井不動産 専務取締役 兼 アセット運用部長 生江隆之氏
■感想■
同社では,昔は“雑談とおせっかい”が上手く機能することで,必要な情報や知識を暗黙知として持っている他の社員に対して,効率的にアクセスができていたそうです.ところが現在では,事業環境のスピードが早くなり,皆忙しくなったことから,“雑談とおせっかい”が,昔のようには上手く機能し難くなっているそうです.
それを補完するため,@人事移動が早い(“〜畑”出身という考え方が無い),A人事部員が年1回全社員と面接する,B取締役全員が社内ゼミを行っている,という仕組みを実践しているとのことでした.
同社では,必要な情報や知識を暗黙知として持っている他の社員への効率的なアクセスを実現する仕組み(検索能力),それが同社の知的資産として機能しているようです.
ワークショップA「企業コンピタンスと知的財産マネジメント」
プレゼンター;武田薬品工業 常務取締役 秋元浩氏
■感想■
今多くの企業が取り組んでいる知的財産戦略を,1994年から組織的に実践してきたとのこと.知財「戦略」といっても,その実体が「管理」であったり,「戦術」であったりすることが多いのですが,同社ではしっかりと「戦略」を実践していると仰ってました.残念だったのは,その「戦略」の内容の一端しか伺えなかったことです.勿論それは重要な企業秘密であるため,仕方在りません.
ワークショップA「企業価値を高める『非敵対的M&A』と『見えない資産』」
プレゼンター;信越化学工業 顧問 金児昭氏
■感想■
金児氏は,企業の知的資産として重要なのは,人の「知」だと仰ってました.
また同氏のプレゼンテーションは,個人的には,腹に落ちることが沢山ある,とても印象深いものでした.
サマリー・セッション パネル講演「GEの経営と強さの源泉」
GE横河メディカルシステム 代表取締役社長兼CEO 三谷宏幸氏
■感想■
GEの強さの源泉が,@規模の活用,A競争力のある事業ポートフォリオ群,B人とカルチャー,Cそれら3つに共通する共有された戦略,にあるとのことでした.今回の発表で特に強調されていたのは,B人とカルチャーにおける人材教育と評価システムでした.
サマリー・セッション パネルディスカッション「企業価値創造の知的資産経営とは」
GE横河メディカルシステム 代表取締役社長兼CEO 三谷宏幸氏
青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科 教授 北川哲雄氏
経済産業省 産業技術環境局 技術振興課長 住田孝之氏
OECD科学技術産業局 経済分析統計課長 東條吉朗氏
早稲田大学ビジネススクール経営専門職大学院 教授 花堂靖仁先生
■感想■
最も印象的だったのは,東條氏の発言で,技術のイノベーションは勿論重要だけれども,非技術のイノベーションが重要だという指摘でした.
「技術のイノベーション」でいう「技術」はTechnologyのイノベーションで,「非技術のイノベーション」でいう「非技術的」は,明確に定義はされていませんでしたが,“価値創造する組織の仕組み”ということだと解釈しました.一つの例として,特許権等を使ったオープンイノベーションが重要との指摘もされていました.
やはり,組織の内外の垣根を越えた多様な主体どうしの“価値協創”を,如何に上手く機能させる仕組みを構築するかが,これからは重要だと再認識しました.
(2006.12.06 大竹)
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2006.12.04
【知的財産】
前回,グラフで示したIPCテールについて若干の考察を,簡単に述べてみたい.
先ず,IPCテールはそれが太くなればなるほど,一定のIPCメイングループ群に属する技術領域について,出願件数が増えていると考えられる.これは別の言い方をすれば,組織内で当該技術領域についての技術蓄積が進み,技術を発明という形に纏め上げる知的生産性が高くなっているということである.
また,IPCテールが伸びている場合には,次の何れかを考えることができるだろう.
その一つは,技術が様々な要素技術の組合せにより構成されるようになってきているということである.一言で言えば技術の複合化が進んでいるということである.1件の特許出願について1つのIPCメイングループが付与されるだけならば,横軸上の1点しか突出しない.しかし,1件で10のIPCメイングループが付与されれば,横軸上の10点が突出することになり,テールは必然的に長くなる.したがって技術はそれが複合化すればするほど,その発明について付与されるIPCメイングループの数は増加し,広がりを見せることとなる.ノウハウ化せず,コストを掛けてまで特許出願しなければならない技術,つまり自社実施の可能性が高い,他社実施を阻止する,クロスライセンスの際の持ち玉にする等の必要性が高い技術についての差別化のポイントが,技術の複合化の領域にまで来ていることを示している.
他の一つは,分析対象の企業にとって,過去に前例のない技術分野についての特許出願を行っているということである.分かり易い例で言えば,新規事業開発を積極的に行っている企業ならば,時間が経つにつれてテールが伸びていく,という特徴を表すことになる.
以上はマクロで見た場合のIPCテールの変化について言えることである.しかし,より重要なことはミクロで観察した場合である.
その一つは,知的生産性の高さである.
出願件数上位のIPCメイングループ群を観察すると,投資対象にぶれが無く,コア技術を明確に定めている企業では,出願件数上位のIPCメイングループ群と出願件数下位のIPCメイングループ群との間で,ランキングの入れ替えがほとんど見られない.実際に,コア技術を基盤技術として成長し続けているあるグローバル企業のIPCテールを観察して見たところ,1993年から2003年にかけて,出願件数上位のIPCメイングループ群について出願件数下位のIPCメイングループ群との間で,殆ど入れ替わりが無かった.したがってこうした企業では,出願件数上位のIPCメイングループ群を基盤技術として,経営資源が成熟しており,知的生産性(知識創造力)が高いということを示唆している.
他の一つは,将来の成長資源にしようと注目している技術がテール側に表れてくることが多いということである.
前回グラフで示した企業では,1993年頃に僅か数件しか特許出願がされていなかったIPCメイングループが,5年後の1998年には数十件,10年後の2003年には数百件を超えて,出願件数上位クラスにランキングされるほどの出願件数となっていた.テール側を観察し続ければ,分析対象の企業がどのような技術分野に興味を持っているのかの推測を付けることができる.また,年々出願件数が増加しているIPCメイングループについての発明者を観察し,同一の発明者が継続的に発明者となっていたり,関与する発明者の数が多くなってきていれば,力の入れ具合を推測することができる.さらに,その発明者が過去にどのような技術の発明者になっているかを見ることで,どのような技術と複合化させようと試みているのかも推測することができる.そして,社内資源として持っていなかった技術の開発に取り組む場合,必要な技術資産を持っている外部企業と共同研究・共同開発を行えば,その企業にとって外部企業が持つ異質な知識を獲得するためのスピードを早めることができる.このような場合には,共同研究開発契約を取り交わすことが多く,共同特許出願という形で成果を纏めざるを得なくなることが多いだろう.出願件数下位のIPCメイングループ群の共同特許出願には,そんな見方をすることができる可能性がある.
最後に,知識社会とIPCテールとの関係について,簡単に触れておく.
知識社会は,知識がすべての価値の中核となる社会のことであり,その特徴は知識や価値の陳腐化が早いということであり,したがって必然的に知識創造力の高い企業が競争力を持つことになるということである.しかも同質の知識の深化は比較的容易であり,比較的短期間の競争優位しか維持することができない.したがって,同質の知識を深化させることに注力する企業よりも,異質な知識を既存の知識と融合させて,新しい知識を効率的に創造することのできる知的技術(ノウハウ)を蓄積している企業の方が,本格的な到来を迎える知識社会においては,持続的な競争優位性のある知識創造力を持つことになる.
このように考えてくると,競合企業の間で,どちらが持続的な競争優位性のある知識創造力を持つかを比較する場合,IPCテールの出願件数下位グループどうしを比較すれば,持続的な競争優位性を構築するための「知的資産」としての潜在力(知識創造力)の違いを,特許関連のデータから評価できる可能性が出てくる.以上の内容については,もう少し多様なデータを多方面に掘り下げて,纏まった形でいずれ公表できるようにしたいと考えており,今回は取り敢えず以上の簡単な考察の提示にとどめておくことにする.
(2006.12.04 大竹)
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2006.11.25
【知的財産】
今回は書籍の紹介ではなく,本日から数回に分けて,以前紹介したロングテールと絡めて知的財産について考えてみたい.
下のグラフは,ある日本企業を対象にして,1993年,1998年,2003年の各年ごとに,特許出願に付与されたIPC(国際特許分類)のメイングループを件数の多い順に表示している.いうなれば“IPCテール”とか“パテント・テール”とでも言えようか.
縦軸は特許出願件数であり,横軸は原点からメイングループを件数の多い順に並べている.なお,出願件数はグループ会社のものを含まない本体単独の件数である.また,この企業が1993年から2003年にかけて他社と合併したために特許出願の件数が急増した,というような事実はない.
1993年では,最も出願件数が多かったメイングループで約550件の特許出願がされており,横軸に表れるIPCテールのメイングループの数は約540であった.
その5年後の1998年になると,最多出願件数のメイングループでの出願件数は減少したものの,IPCテールは伸びている.
さらに5年後の2003年では,最多出願件数のメイングループで約770件と大幅に増加し,IPCテールも大幅に伸びている.下のグラフで横軸を指す2003年の矢印が無いのは,入れ忘れたのではなくグラフに収まらなかったためである.
このグラフから何を読み取ることができるだろうか.それに関する若干の考察は,知識社会をキーワードにして次回に述べることとする.

(2006.11.25 大竹)
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2006.12.04
【知的資産に関するテレビ番組のご案内】
ご紹介するのが直前になってしまいましたが,12月5日(火)の午後11:30〜翌日午前0:00(30分)の間にNHK(総合)の「時論公論」で,「知的資産いかせない日本」という番組が放送される予定です.
関係者の方のお話によりますと,日本メーカーがなぜiPodを作れなかったのか,といったことが知的資産をキーワードにして議論されるようです.
一人でも多くの方に是非ご覧いただければと思い,ご紹介します.
(2006.12.04 大竹)
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2006.11.21
【書籍紹介】 W・チャン・キム,レネ・モボルニュ(2005)『ブルー・オーシャン戦略:競争のない世界を創造する』,ランダムハウス講談社.
ブルー・オーシャン戦略と言えば,現シンガポール政府やサムスン電子で採用され,現に実行されている戦略として有名である.
ブルー・オーシャン戦略は,同書の副題にもあるように,過当競争となっている既存市場(著者はこれを“レッド・オーシャン”と呼ぶ)から脱却して,競争の無い未開拓の見えざる市場(“ブルー・オーシャン”)の創造を目的として体系化された戦略ツールである.
しかしこの戦略ツールで重要なのは,既存市場に目を向けるのではなく,未開拓の見えざる市場をどのように創造するか,という未知の課題に意識を向けることによって,組織のマインドセットを変革し,組織の若返りを促進させるということにある.つまりサプライ・サイドからの視点で考えるのではなく,既存の枠組みから外れたディマンド・サイドからの視点を持つという,価値観の転換が重要だということである.こうした考え方は前々回及び前回紹介したロングテールにも通じるところがあり興味深い.
ところで,特許出願の明細書を作成する際に,クライアントが想定していない実施形態や変形例を創出することに悩まれる方も多いだろう.実施形態を増やすことによって,実施形態を伴った形で,発明をより上位概念化することができるからである.
このように発明の内容を上位概念化する方法論として,要素技術(発明の構成要素)の数を「増やす」,要素技術の数を「減らす」,要素技術を「付加する」,要素技術を「削除する」,要素技術を他の要素技術で「置換する」,というような5つのアプローチの仕方がある.
こうしたアプローチは多くの実務家の方々が日々実践されていると思うが,驚いたことに,本書にはその「増加・減少・付加・削除」と同様の考え方が紹介されている.“4つのアクション(the
four actions framework)”がそれである.発明の発掘時や明細書の作成時のことを思い浮かべつつ本書を読むと,その他にも参考になることがあるかも知れない.弁理士にとって,本書にはそういう読み方が出来るという魅力がある.一読をお薦めしたい.
なお,11月18日に紹介したハーバード・ビジネス・レビューには,本書の著者であるキム教授のインタビュー記事が15ページに亘って掲載されているので,そちらも参考になるだろう.
(2006.11.21 大竹)
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2006.11.18
【書籍紹介】 D.G.ゴールドスタイン,D.C.ゴールドスタイン(2006)「DAIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2006年11月号」『ロング・テールの教訓』,ダイヤモンド社.
デジタル・コンテンツの配信サービスは,Amazonなど多数の事例で見られるように,前回紹介した“ロングテール”を抜きにしては語れないサービスの一つである.しかしながら同サービスは既に供給元過剰の過当競争なりつつある.“聴き放題”,“見放題”の「定額制配信サービス」の登場は,その一つの兆候と見て取れる.
本論文の著者は,この世に無料のものなど無いから,定額料金プランのサービスにはコストを抑える仕掛けがあると指摘した上で,コンテンツプロバイダーのための3つのコスト抑制戦略を提案している.詳細は同書に譲るが,いずれの提案も一つの考え方として,ロングテールに感心のある方々には参考になるだろう.
それにしても,既に音楽配信サービスなどは,既に過当競争の様相を呈しており,マーケティングの視点だけでは差別化・差異化が困難となっている.サービスも製品と同様に単品売り切り型であると,体力勝負の消耗戦に陥ってしまう.これは過去の歴史的事実から明らかである.
やはり知識創造という視点から,企業が顧客や他の企業などの多様なステークホルダーと価値を協創し,スパイラルに協創体系への参加者が共進化し続けるような仕掛けが必要である.アップル・コンピュータが音楽配信事業で構築した“価値協創のビジネスモデル”の仕組みを超えるビジネスモデルとは何であろうか.ロングテールが顕在化する社会を迎えた今,知識創造論を新構築する時が来ている.
なお,本書は創刊30周年記念号であり,そのメインテーマは『偉大なる経営論』である.そして多数のページを割いてマネジメント理論の30年史が紹介されている.戦略論の流れを勉強したい方々にとって,資料的価値の高い内容となっている.これだけでも本書はお薦めである.
(2006.11.18 大竹)
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2006.11.14
【書籍紹介】 クリス・アンダーソン(2006)『ロングテール:「売れない商品」を宝の山に変える新戦略』,早川書房.
本書のタイトルとなっている「ロングテール」は,特にインターネット・ビジネスの世界で今最も注目されている概念である.しかしインターネット・ビジネスの世界に留まることなく,旧世代から次世代への変革期を象徴する歴史に残る言葉になる可能性を秘めている.本書はその「ロングテール」という概念の生みの親による著書である.これ一冊読めばロングテールを知るには十分だろう.
「ロングテール」とは,一言で言えば,文化と経済が,これまで顕在化していた大衆的な物や市場から,隠れていた無限のニッチな物や市場へと移行する現象を説明するための理論である.特徴的なのは,マーケティングを射程にしているのではなく,むしろ経済学上の,広くは文化の形成という社会学上の理論として捉えているところである.
ロングテールの起源から,Amazon,ヤフー,イーベイ,ネットフリックス,マイスペース,アップル社のiTMSなど現在の米国企業によるロングテールの多数の事例が紹介されている.事例が米国企業中心であることから,日本の読者にはややピンとこないところがあるかも知れない.しかし逆を言えば,米国企業によるロングテール・ベースのビジネスモデル構築力がここまで来ているのかと,感心させられることが多い.米国企業は儲けの仕組みとしてのビジネスモデルの構築力が高いと言われているが,本書はビジネスモデルに関わる人にとって必読書である.
技術経営と知識経営の視点で一言
ちょうど昨年の今頃だろうか.早大MOTで修士論文を書いていた頃に一つの“憶説”を持った.日本という国では,あちらこちら様々な分野で小さな“ブーム”が発生する頻度が高い,“ブーム”が単なるブームではなくなり社会的な一つの“スタイル”として定着して一般化する頻度も高い,したがって様々な“スタイル”ごとのニッチ市場が形成される頻度が高い,こうした流れによる多様なニッチ市場の創出力,それこそがモノ余り時代における日本社会の一つの文化的側面として徐々に形成されてきているのではないか.だとすればモノづくりにおいても開発ツールを市場に開放することで,一つの製品について顧客ごとの多階層的な製品を実現することができ,企業はできるだけ多様な人々を自主開発に呼び込むためのプラットフォームを,製品として提供すればよいだろう,と・・・.
ロングテールという考え方は,ネット系企業だけに固有の考え方ではない.これまでのところネット系企業が中心だが,顧客に対して提供する価値を何に設定するかによって,モノづくり企業にも適用できる余地は大いにある.
顧客への提供価値を,単品売り切りの自社製品から得られる便益と設定してしまえば,ロングテールを考慮する余地は無い.しかし,自社製品の単品売り切りを超えて「選択肢の多様性」として設定するのであれば,ビジネスモデルの一つの要素としてロングテールを組み込むことができる可能性は多いにある.
ところで,紹介した「ロングテール」では,大衆市場の影に隠れていたニッチ市場に光を当てて,その需要をどのようにして捕まえるか,という視点が出発点となっている.しかし,知識経営の視点からすれば,ロングテールを利用して,新しい“知識”を創造する仕組みをどのように創るか,という+αの視点が必要である.製品・サービスは知識の集合体であり,ドッグイヤーと呼ばれるように製品のライフサイクルは年々短期化している.したがって,製品・サービスが“花”だとすれば,その“種”である新しい知識をどのように持続的に創造するかが問題である.ロングテールではこのテーマについて答えが出ていない.
今後の技術経営の課題は,新しい知識を持続的に創造する仕組みをどのように構築するか,つまりハードウェアとソフトウェアとをどのように組み合わせ,自社の知識と外部の知識の融合させるプラットフォームを作り,そこに新しい知識を創造するための仕掛けをどのようにして構築するか,ということがポイントである.
そしてその枠組みの中で,特許権等の知的財産をどのように利用するかもポイントである.これまでのように特許権は技術を独占するものという発想だけではなく,IBMが実践しているように特許権はコミュニティを支えるものという発想も,仕組みに応じて戦略的に使い分けることが必要である.
これが“技術経営と知識経営の共進化”という,モノづくり企業にとって取り組むべき新しいテーマとなるだろう.
(2006.11.14 大竹)
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2006.11.11
【書籍紹介】 柳原一夫,大久保隆弘(2004)『シャープの「ストック型」経営:最強のモノづくりを支えるマネジメント』,ダイヤモンド社.
「知的資産経営ウィーク2006」が間近に迫っており,「知的資産」に関連する話題をということで,本書を取り上げた.
本書の中には「知的資産」という用語は一切出てこない.しかし本書で紹介されているシャープの「ストック型経営」は知的資産経営の優れた実践例である.
例えばキー・デバイスの内製化,キー・デバイスを様々な自社製品に展開するデバイスと商品とのスパイラル戦略(垂直統合)の実践力,技術のブラックボックス化,緊急開発プロジェクト,部門間の垣根の低い企業文化などは,シャープの知的資産経営を支える重要な要素である.こうした個々の知的資産経営の要素が,一つの目標の下に統合することで,同社では全社的な知的資産経営が実践されていると見ることができる.その結果,独創的なオンリーワン製品を次々と市場に投入し,電機大手の中でも高い利益率を上げている.
本書の鍵概念となっている「ストック型経営」とは,簡単に言ってしまえば,自社の強みや独創性・独自性を徹底的に追求し,それを長期的に蓄積・進化させ続ける経営モデルである.本書では,この経営モデルの好適な実践例としてシャープに焦点をあてて詳細に解説し,次世代の「日本の新しい経営モデル」を提唱しようとする意欲作である.また,技術のブラックボックス化の手法についても整理して書かれており大変参考になる.
本書は,話が具体的で経営学を勉強したことの無い人でも読み進めることができる良書である.
ただその言葉の節々には非常に奥深いメッセージが込められている.噛めば噛むほど味が出るという意味でも良書である.
知的資産経営の視点で一言
シャープと言えば「液晶」,「アクオス」というイメージが強いが,筆記具のシャーペンを世界に先駆けて考案し商品化したのは同社の創業者である早川徳次氏である.また,国産テレビ第1号も同社製品であり,カメラ付き携帯電話も同社製品が世界初である.他にも多数の世界初,国産初の製品がある.
日本には,同社のような大手メーカーだけでなく,中堅企業,中小企業の中にも,ストック型経営を実践してきた企業が少なからず存在する.しかしながら,こうした世界初・国産初の独創的な製品を多数開発している歴史的事実を知っている人は,それほど多くいないのではなかろうか.
「ストック型経営」を実践してきた日本の多くの企業にとって,積み重ねてきた歴史的事実をテレビコマーシャル等を通じて社会に伝えることは,資本市場関係者や消費者が,良い意味で企業価値を“再認識”する良い機会になるだろう.
その意味では,目の前にある製品・サービスから受ける便益だけでなく,独創的で在り続けているという歴史的事実の社会的な認知も,消費者が製品・サービスを購入する際の選択基準の一つになりうる.
例えばシャープの事例に当てはめて考えてみると,消費者が薄型テレビを購入する場面で,「シャープペン」→「シャープ」→独創的な企業→「アクオス」を選択,というような薄型テレビとは全く関係の無いシャープペンを出発点とする想定外の認知のプロセスを経ることもあるだろう.消費者の認知構造は多様である.必ずしも目の前の製品・サービスだけでなく,コーポレートブランドを基点として,そこから派生する様々な要素を連結して,イメージを創り出す.
ストック型経営を実践している多くのモノづくり日本企業にとっての課題の一つは,知的資産経営報告書や知的財産報告書といったIR系コミュニケーションツールやPRをつうじて,技術進化のストーリーを中心とする企業の成長のストーリーと,未来への成長のストーリーとを,企業ごとのスタイルで広く“伝え続ける”ことであろう.
(2006.11.11 大竹)
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2006.11.07
【イベントのご案内】 「知的資産経営ウィーク2006」(12/1(金)−12/8(金))
12月の始めに「知的資産経営ウィーク2006」と称して知的資産経営に関する様々なイベントが開催されます.
12/5(火)・・・「日経知的資産経営フォーラム」
12/7(木),8(金)・・・「OECD知的資産経営国際カンファレンス−イノベーションと持続的成長に向けて−」
12/6(水)は,知的資産経営コンソーシアムのワークショップが開催されます(@早稲田大学).
財務諸表には表れない企業価値を評価する視点として知的資産が世界的に注目されています.日本でも経済産業省の知的財産政策室,日経,早稲田大学等が積極的に知的資産経営の普及に取り組んでいます.
今回開催される様々なイベントには,内外からこの分野で先端をいく多数のゲストスピーカーが参加する予定で,知的資産経営を知るとても良い機会です.是非参加されてみてはいかがでしょうか.
(2006.11.07 大竹)
■□■追加情報■□■
「知的資産経営ウィーク2006」は,12/1(金)−12/8(金)に開催されますが,上記以外のイベントは次のとおりです.
12/1(金)・・・公認会計士協会 中小企業知的資産経営セミナー(大阪)
12/4(月)・・・大阪大学 知的資産経営シンポジウム(大阪)
(2006.11.08 大竹)
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2006.11.04
野中郁次郎・勝見明 (2004) 『イノベーションの本質』,日経BP社
知識経営論で世界的に著名な野中郁次郎先生の著書.
個と組織との相互作用によるイノベーションについて,サントリーのカラダ・バランス飲料「DAKARA」,ホンダの「アコードワゴン」など13のケース(事例)と,ケースごとに知識経営の観点からの分析とが紹介されている.
アカデミックに書かれている訳ではなく,経営を勉強していなくても理解しやすいように平易に書かれているのが大きな特徴.本書を読むと,経営学ってこんなことも対象なのか,と新たな発見を感じることができる方も多いことだろう.
製品寿命が短命化しているため,ケースの中にはやや古いものもある.しかし重要なのは,イノベーション(知識創造)のエッセンスを知ることであり,それを少し見方を変えて,目前の課題に対して応用する適用力を養うことであろう.本書にはその少し見方を変えるためのエッセンスがぎっしり詰まっている.
あらゆる方に一読をお薦めしたい良書である.
知的財産の視点から一言
製品開発には大まかに言って競争性能,品質,コストに基づく発想限界がある.
しかし特許権を取得する上では,製品の性能・品質・コスト上の課題は無関係である.現実の開発上の不都合は,他の技術によって解決されれば良いことであり,基本的に明細書には発明の良いことだけを書けば良い.
つまり,発想限界が無いということが,知識としての特許ならではイノベーションの本質であり,特許網を戦略的に構築するための考え方の基礎にもなる.
例えば日立化成工業鰍ナは,他社が将来製品化する可能性の高い製品使用をカバーできる有効特許を,製品・技術分野ごとに最低5件取得することを目標とする「5FP(Fighting
Patents)活動」を推進しているという(2004年〜2006年度版「知的財産報告書」).
同社の強みは,その活動を自社製品だけでなく,周辺領域も含めた形で行うことができる周辺知識があること,現にその活動を実行していること,その活動の実行を知的財産報告書という形で対外的に表明していること,実際に特許網の構築できたこと(成果)をホームページのニュースリリースなどを通じて対外的に広告していること,であろう.
発想限界が無いという特許ならではのイノベーションの本質をどう利用するのかを,そろそろ真剣に考える時期が来ているのではなかろうか.
(2006.11.04 大竹)
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2006.10.30
寺本義也・山本尚利 (2004) 『技術経営の挑戦』,ちくま新書
多くの日本企業では,1870年代〜1980年代にかけて規格量産型製品の大量生産を通じて躍進を続けてきた.
しかし,1990年代に入ると日本企業の躍進の原因を徹底的に調べ上げてきた米国が,ハイテクベンチャーを中心とする独創・先端的な技術開発によって躍進することになる.
ところがこの躍進も,2000年のNASDAQで起こったネットバブルの崩壊を契機として行き詰まりを見せることになる.
日本企業の躍進期を「第1世代の技術経営」,続く米国企業の躍進期を「第2世代の技術経営」とすれば,21世紀にはこれまでに無い「第3世代の技術経営」が求められており,その本質がなにかを論じるのが本書のテーマである.
詳細は本書に譲るが,キーワードは「非技術要素」である.
これまで「技術」という言葉は,「科学(Science)」や「工学(Engineering)」という文脈で使われてきたし,実際に認識されてきたのが殆どであろう.
こうした科学的要素や工学的要素を「技術要素」とすれば,「非技術要素」は「技術要素」の背景にあって技術の進化の方向性を決める要因となる事象である.
こうした視点から様々な「非技術要素」の事例について書かれており,読み物としても面白い.もちろん「第3世代の技術経営」を読み解く経営思想としても斬新である.
これから技術経営をかじってみたい人,また製品企画に困っている方など,多くの人にとって何らかの発見を期待できるであろう良書である.
知的財産の視点から一言
10月26日付けのトピックで,優れた発明の発掘者に求められるスキルとして,「多様なコンテクストの束」を持つことが重要であると書いた.
本書で書かれている「非技術要素」は,まさにそのスキルを持つための視点として極めて重要である.
その視点があるか無いかで,発明の発掘する際のミーティング品質も大きく変わる.
今回は,特許出願の明細書での「非技術要素」の使い方を考えてみる.
例えば,特許出願の明細書には,【課題を解決するための手段】と【発明の効果】という項目がある.
【課題を解決するための手段】の項目には,発明の構成を記載するとともに,それがどのような作用を奏するか,そしてその作用によってどのような効果が生じるかを,一連のストーリーとして記載することが多い.
ところが【発明の効果】にも,【課題を解決するための手段】に記載した発明の構成とその作用によって,どのような効果を奏するのかを記載する.このため発明の効果の記載として前者と後者とに同じことを繰り返し書いてしまうようなことがある.
これは【課題を解決するための手段】と【発明の効果】とが項目として分断しているために起こることだが,冗長な重複記載は,書き手としてはできれば避けたいところである.明細書にも美的品質という見方があっても良い.
こうした場合には,「非技術要素」という視点が役に立つ.
例えば【課題を解決するための手段】には「技術要素」の視点で発明の効果を記載し,【発明の効果】には「非技術要素」の視点で発明の効果を記載するという工夫をすると良い.
多様なコンテクストの束を意識して,「技術要素」だけでなく「非技術要素」という視点を持つことは,ちょっとした特許実務でも役立つのである.
(2006.10.30 大竹)
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2006.10.26
寺本義也・原田保(2006)『無形資産価値経営:コンテクストイノベーションの理論と実践』,生産性出版
企業には,利益(価値)を創出する源泉となる何らかの強みがある.それは研究開発力,営業力,設備,人材,他社との連携など,企業ごとに様々である.
それらの経営資源は単独で利益を創出する訳ではなく,何らかの「意味づけ」によって相互に結合することで競争力を発揮する.
したがって競争力のある企業には,その「意味づけ」の仕方において,競合他社には無い独自性がある.
他方,競争力の無い企業では,「意味づけ」の仕方において,競合他社と同質である等,何か足りないところがあるのだろう.
本書の鍵概念となっている「コンテクスト」とは,前述した「意味づけ」と同義であると考えられる.
そして,既存の「意味づけ」を新しい「意味づけ」に置き換える(転換する)こと,つまりコンテクストを転換することで,独自の無形資産を創造するというイノベーションの大きな枠組みが「コンテクスト・イノベーション」である.
「コンテクスト」という視点を取り入れた知識創造の枠組みは,私の知る限り類例がなく斬新である.一読をお薦めしたい.
知的財産の視点から一言
コンテクスト・イノベーションは,本書の事例にも見られるように,経営戦略,事業戦略,新製品・サービス開発など,様々な分野に適用できる可能性を秘めているが,ここでは発明の発掘の場面について一言.
発明を発掘する際には,技術をどんな視点から捉えるかが極めて重要である.
優れた発掘者は,同じ技術分野からの視点,比較的近い技術分野からの視点,全く異なる技術分野からの視点,消費者ないしユーザからの視点,侵害訴訟やライセンスを見据えた視点といった多様な視点から発明を捉えようと,脳細胞をフルに駆使する.
こうした取り組みの中から発明者にとって想定外の新たな視点が生まれ,それを発明者にフィードバックすることで新たな発明への気付きを与える切っ掛けとなることは意外にも多くある.想定外の発明や実施形態はこうして生まれる.
そのような多様な視点の束というのは,喩えが悪いかも知れないが,幾つものコンテクストという引き出しを持つ「タンス」のようなものである.
発掘者に求められるスキルは,出来るだけ異質で多様なコンテクストの引き出しを数多く持ち,引き出しから取り出した上着やシャツや靴下といった異種類の衣類(知識)を,上手い具合にコーディネート(自在連結)して人(発明)に着させる(適用する)ことにある.
では,引き出しの数を増やすには,どうすればよいか.
その一つは,現在自分が出来ることや得意なことではなく,むしろ自分が知らないことや苦手意識を持つことに,自分の意志で自発的に取り組むことである.
それが出来なければ,その人の成長余地は殆ど無い.厳しいかも知れないが,それが現実である.
成長には,成長したいという意志と自発的な行動が不可欠である.
企業が個人の集合体である以上,企業の成長は個人の成長に依存する.
コンテクスト・イノベーションというのは,実は個人の成長への一つのヒントを投げかける基本的な考え方の一つである.
なお,関心のある方は,学術的視点でより詳細に書かれた早稲田大学MOTの寺本義也教授の前著『コンテクスト転換のマネジメント:組織ネットワークによる「止揚的融合」と「共進化」に関する研究』(2005年,白桃書房)を一読されることをお薦めします.
より深層で,コンテクスト・イノベーションを理解することができるでしょう.
(2006.10.26 大竹)
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2006.10.24
井田昌之・進藤美希(2006)『オープンソースがなぜビジネスになるのか』,MYCOM選書
オープンソース・ソフトウェアの誕生から現在までの経過,そして未来への展望について書かれている.特に誕生の経緯については,MIT(マサチューセッツ工科大学)のAI研(人工知能研究所)に所属していたリチャード・ストールマン氏に焦点をあてて詳しく解説されており,大変興味深い.
個人的に特に注目したいのは2章の記述.社会構造の変化によって様々な方面でビジネスモデルに変化が起こっていることを,実にスッキリと分かり易く解説していて好印象.2章だけでも一読の価値がある.
知的財産の切り口では,前述のストールスマン氏が「コピーレフト」を提唱した経緯が説明されている.「コピーレフト」は,ソフトウェアの著作権を放棄するのではなく,権利を保持することによって,多様な人々に開発の自由を保障する法的プラットフォームを実現する仕組み.
こういった「コピーレフト」という考え方は,何もソフトウェアだけでなく,原理的にはモノについても適用可能である.
特にコモディティ化した製品について,特許権等の「知財権レフト」によってビジネスモデルを構築できる可能性は十分あると思われる.
本を読んで想像し,自分が普段関わっていることに応用的に当てはめて考えると,普段あまり意識を向けない身の回りにあるモノへの新しい見方が出てくるのである.
(2006.10.24 大竹)
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2006.10.23
ホームページ開設. |